2010年私たちは沖縄県那覇市にカウンター10席だけのお店「TRATTORIA Lamp(トラットリアランプ)」を開店しました。
TRATTORIAはイタリア語で食堂を意味します。
店名の「Lamp」には、華やかでも最先端でもなくていい、気持ちが暖かくなる料理を食べて頂きたいという想いを込めました。
席数は10席のみ、当時カウンターのみでおまかせコースを出している完全予約制のイタリアンはまだ沖縄には珍しく、程なくして「予約が取れないお店」と言われるようになりました。
店は地元の方や接待のお客様で賑わい、独立して不安に思っていた気持ちが落ち着き、「店を続けていけそうだ。」と安心したのを覚えています。
開店前年に長男が生まれていたこともあり、なんとかして店を軌道に乗せようとお客様からの要望があれば定休日でも店を開けて対応し、早朝の仕入れから、営業後の片付けまで、「おそらく全ての開業経験者がこのフェーズを乗り越えてきたんだ。」と妻と互いに言い聞かせ合いながら日々を重ねていました。
お客様は来店して下さる。
店の中は笑顔で溢れている。
それとは反対に私たちは疲弊し、家庭から笑顔が消えていきました。
今思うとその一因となったのが家での食事だと思います。
まだ長男が幼かったこともあり、育児と店舗運営を両立させるには物理的に時間が足りず、お客様にお出しするお料理には手を抜かず仕入れと仕込みをしっかりする反面、自分たちの食事は、深夜のコンビニ弁当、冷凍食品、買ってきた弁当などがその中心でした。
子どもたちにも買ってきたおにぎりをつぶして混ぜご飯にしたものをそのままあげたりしてました。
あの頃の家族写真の私たちは、笑っているがどこかに陰りがあるようにみえます。
「このままでいいのだろうか。」
「もっとちゃんとしたい。」
「こどもがかわいそう。」
その気持ちが常にあったんだと思います。
変えたい!と思った私たちは、まず家族の食事を見直しました。
質素でもいい、簡単でもいいから家族のために手作りの食事をあらためて作ることから始めました。
全てを一気に変えることは難しいけど、今日一つだけ手間をかけることはできるかもしれない。
「今日は特別に大好物のコーンを。」
「辛いのは苦手だから少し甘めに。」
「いつもお疲れ様。」
手作りの食事には「家族を想う気持ち」を込めました。
そして2020年6月、私たちは10年間営業してきたTRATTORIA Lampに一つの区切りをつけました。
その後は、これまで続けてきた飲食店という形から、「食で未来をもっと豊かに」という理念の元、活動のフィールドを広めていこうと考えました。
それと共に、自分たちの“働き方”と“生き方”ももう一度考えてみようと。
今は、
“つたえる”を目的に現代的沖縄料理を提供する「傳饗」を完全予約制で月に数日、
“たべる”と“未来”を考える「たべるデザイン」、
“つなぐ”をつくるマルシェを2つ運営しています。
食で未来は変えられないという人がいます。
だけど僕は変えられると信じている。
美味しいものを食べながら怒る人はいない。
小さなことから少しずつ。
